【怖い話】夢なのか現実なのかわからない体験をしました。その体験の後、後輩が大学に来なくなりました【長編】

Yさんという女性が、大学生だったときの話だ。

彼女は地元から離れた大学に進学し、独り暮らしをしながら授業にサークルにと充実した毎日を送っていた。

大学2年生になると、サークルの後輩のFさんという女の子と仲良くなった。Fさんは実家から通学しているという。サークルの活動がある日も7時には帰るため、親が厳しいのかな、とYさんは考えていた。

ある日のこと。Yさんが授業の合間の時間帯にサークルの部室に行くと、ちょうどFさんも来たところで、しばらく2人でダラダラと時間をつぶしていたのだそうだ。

Yさんが部室にあるテレビを点けて適当にチャンネルを替えると、たまたま『父親がストレスから家族に手を上げるようになり…』といったドラマのワンシーンが流れてきた。

それを見たFさんは少し思い詰めた顔で、「先輩、うちのお父さんが最近変なんですよね」と打ち明けてきた。

「え、お父さんが手を上げてくるの? それは良くない。ちゃんと相談室とかに行った方がいいよ」

「いや、そういうのじゃないんですけど、最近お父さんが方角とか方位とかに凝りだしちゃって」

「方角って、風水とか?」

「私も風水なのかな、って思ってたんですけど、なんかちょっと分かんないんですよね。そんな感じではあるんですけど……。私の家、普通の2階建てなんですが、1階の奥の部屋が一番方角が悪いとか、悪いものがたまりやすいからって、『一家の主がここで頑張らないといけない』ってお父さんが言い出して……。それから一人でその部屋で寝るようになったんですよ。2ヶ月くらい前からなんですけど」

「あ、結構最近の話なんだ。前からそういうお父さんだったの?」

「いえ、急に言い出したんです」

「へえー、何かにかぶれたのかねぇ、風水とか皆が知ってるやつだったらいいけど、よくわかんない宗教とかだったらいやだよね」

「そうなんですよね……」

「なんかあったら私に相談してくれていいよ。いきなり学生課とかに行くの抵抗あるでしょ」

「ありがとうございます」

そんな会話をしてから1週間くらい経った頃。

「あの~先輩、今ちょっといいですか?」とFさんが声をかけてきた。

「いいよいいよ、どうしたの?」

「お父さん、ずっとその部屋で寝てるんですけど、でも何か変なんですよ……」

Fさんはこんな話を始めた。

昨夜、Fさんは2階の自分の部屋で寝ていた。
深夜になって喉が渇いたため、1階の冷蔵庫にある麦茶を飲みに行こうと思い、下に降りたのだという。

階段を降りていくと、1階の奥の部屋からお父さんのいびきが聞こえる。
(あーお父さん、またあの部屋で寝てるんだ)
そう思いながら台所へ向かおうとすると、そこにお父さんとおぼしき男性の人影がある。

この家にはお父さん以外に男の家族はいない。
Fさんは一瞬変な人が入ってきたのかと思ったが、その人影は見覚えのあるパジャマを着ていて、紛れもなくお父さんだった。明かりを点けず真っ暗な中、こちらに背を向けて食卓に座り、カップを持って何か飲んでいる。

(あれっ? じゃあこのいびきはお母さんなのかな? お父さん起きてるのか……)

そう合理的に考えようとした。しかし、一番奥の部屋の襖を開けてみると、お父さんはそこに寝ていた。

(えっ!?)
念のため隣の部屋のお母さんも見たが、お母さんも寝ている。

(じゃあ台所の人は誰? やっぱり泥棒なの?)
と思って振り返ると、台所の入り口から半分くらい体を出して、お父さんがこっちを見ている。

お、お父さん……、と呼びかけようとしたが、あまりのことに声が出ない。

するとお父さんが、『お前はいい子だから、それ以上踏み込んだりしないだろ?』と言ってきた。
「……それでゾッとしちゃって、麦茶は飲めてなかったんですけど自分の部屋に戻っちゃったんですよ。夢なのかもしれないけど、良くないですよね」

「うん……」
話を聞いたYさんは正直半信半疑ではあった。しかし、お父さんが変なことになってこの子も参っちゃってるのかな、と感じた。

Yさんは、なんとなくFさんの両親がうまくいってないのかなという印象をもった。どうやら両親が一緒に寝ていないようだし、そもそもFさんの口からお母さんの話がめったに出てこなかったからだ。

変なお父さんのこともだが、Fさんが心配だった。そこで、Yさんはこんな提案をしたという。
「今度さ、私もあんたの家に泊まってみるよ、サークルの先輩に何か教えてもらう、みたいな名目でさ」
「ありがとうございます。すみません、お願いします!」
Yさんは土曜日の夜にFさんの家に泊まることにした。

土曜日。

2人は授業が終わった後、大学からバスに乗ってFさんの自宅へ向かった。そのバスの道すがら、Yさんは気になっていたことを聞いてみた。

「お母さんって、お父さんが変なこと言い出して、今まで寝てなかった部屋で寝てることについてはどう言ってるの?」

「うーん、お父さん婿養子なんですよね」

「ほお」

「で、お父さんはずーっとお母さんの尻に敷かれている感じで、ガミガミ言われるのに耐えてるんです。ひょっとしたら方角がなんとかって言い出したのは、ちょっとでも自分の権利とか立場を主張したいみたいなことなのかもしれないんですけど……。お母さんはそれに対して『あっそ』みたいな、冷たいもんですよ。それも嫌ですしね」

「あーそうなんだ……」

(そんな空気のところに行くのか……。誰か適当な男子とかもう一人連れてくればよかったな……)

バスを降りたのは夕方で、あたりは暗くなり始めていた。だが、Fさんの家は門灯が点いていない。今この家には誰もいないかのような雰囲気だった。

Fさんに玄関の鍵をあけてもらって入ると、中も明かりが点いておらず真っ暗だ。しかし、家に上がると奥からお父さんが出てきた。

「お邪魔します」と挨拶すると、「あーどうも、聞いてますよ」とごく普通の応対をされた。

(なんだ、普通のお父さんじゃん。家の中は真っ暗だけど)

Yさんは少しばかり意外に感じた。

2人はあちこちの電灯をつけながら、とりあえず2階のFさんの部屋に荷物を置きに行った。

聞けば、Fさんは今日ご飯をつくる当番なのだという。

Yさんも手伝って、2人で適当に夕食を作ることになった。

ご飯を作りながら、Yさんはふと、お母さんが出てこないな、と気づいた。

「お母さんはどうしてるの? 今日はお仕事なの?」と聞くと、

「あ、お母さん今風邪引いて寝込んでるんですよ」という答えが返ってきた。

「そうだったんだ。じゃあお母さんの分のご飯はどうしようか」

そんな話をしつつ夕食を作っていると、奥の方からマスクした女性が出てきた。

「あーどうも。すみませんね、お構いもできなくて……」

風邪を引いて具合が悪そうなこと以外は、いたって普通のお母さんだ。

「ちょっと2、3日前から風邪でねぇ」

「ありゃ、それは良くないですね、お母さんには後でおじやでも持っていきましょうか?」

「気を遣わせてごめんなさいね、でも大丈夫よ~」

そんなやり取りをした後、お母さんは早々に自分の部屋に戻っていった。

(なんだ、お母さんも全然普通じゃん)

Yさんは少々ほっとした。

夕食が出来上がったので、Yさん、Fさん、お父さんの3人でご飯を食べる。食事中も、テレビを見ながら芸能人の下らない話にみんなで笑ったりして、普通の家庭のように見えた。

(まあでも、今は私が来てるから意識的に普通の家族をやってるのかもしれないしな)

そう冷静に考えることにした。

食後、お風呂を貸してもらって上がると、まだ8時か9時くらいだったが、ちょうどお父さんが例の部屋に引き上げるところだった。

お父さんは「じゃっ、○○の時間なんで」と言い残し、廊下に出て一番奥の部屋に入っていく。

Yさんには「○○の時間」という部分がよく聞き取れなかった。

「ねぇ、さっきお父さん何て言ってたの?」

「私も聞き取れないんですよね~。毎回『あっそ』って聞き流してるんですよ」

話しながら2階のFさんの部屋に戻ったが、特にすることもなく早々に寝てしまったという。

真夜中。Yさんは「先輩先輩、」という声に起こされた。

他人の家でそんなにぐっすり眠れるはずがないのに、なぜかYさんは熟睡していたようだった。

「なに?」

「先輩、変な音しません?」

「えっえっ、何これ?」

起こされた瞬間に、Yさんは家の中で尋常でない音がしていることに気がついた。普通ならば絶対に目が覚めるはずの騒々しさだ。

騒音は1階から聞こえてくる。物音なんて生易しいものではなく、引っ越し中にいろんな家具などをガタガタゴトゴト動かしているかのようだった。

時計を見ると夜中の2時過ぎである。絶対におかしい。

「これ、5、6人はいないとたてられない音ですよね……」

Fさんはすっかり怯えている。

「こんな物音今までしたことあったの?」

「いや、初めてで……、っていやいやいや、先輩、1階だけじゃないですよこれ」

耳を澄ますと、自分たちがいる2階の廊下からも音がしている。

1階からする音は、ものを右にやったり左にやったりしている感じだった。大きな家具を床に引きずるズズズズ…という音も響いている。

一方、2階の廊下からは段ボールをカッターで切ったり、ガムテープをビー、ビッ、ペタッとちぎって貼ったりする音が聞こえてくる。音から想像するに、引っ越し作業のようなことが行われているようだ。

「なになに、気持ち悪い気持ち悪い」

2人は半ばパニック状態だった。

「どうしよう、どうしよう先輩」

「でもこれで警察呼ぶっておかしいじゃん、まだ確証はないし」

「でも10人くらいいますよね? この家……」

段ボールとカッターで作業をする音はまだ続いている。

「私、外の奴らが何してんのか見るから。なんか殴れるものない?」

Fさんは手近にあった電気スタンドを手渡してきた。

「私それ持ってるから、あんたはドア開けて」

Fさんが意を決したようにドアを開けた。だが、廊下には何もない。誰もいない。

(えっ?)

しかし、下からはまだ引っ越し作業のような音が聞こえる。

Fさんが言う。「でも、下で明かりがあったら、ここからでも分かると思うんですよ。階段に明かりがさしこむので。でも今階段真っ暗ですよね?」

百歩譲って泥棒が作業をしているとして、真っ暗な中でそんなことはしないだろう。そもそも泥棒だったとしたら、とっくにやることを終えていないとおかしい。

「じゃあさ、ちょっと私降りてみるから」

「いや、先輩危ないですよ!」

「だって警察に言えないじゃんこんなこと、下から音がするってだけじゃ。気のせいでしょうって言われちゃうよ。私行ってみるから」

押し問答をしていたら、急にスッと階下の音が消えた。

事態が飲み込めず、2人で身を固くして1分ほどそのままでいたが、その後は何も物音がしない。5、6人で作業していたらそんなことはあり得ない。

「いやいや、私行ってみるよ。懐中電灯ない? こっそり降りてみるから。あんたは階段の上のとこいなさいよ」

懐中電灯を片手に、Yさんはゆっくりと階段を降りていった。

家の中は、先程までの騒音が嘘のようにシーンと静まりかえっている。夕飯を食べた食卓を見ても、誰もいない。玄関にも、トイレや風呂場にも人の気配すらない。

(あれ……、すごい音したけどな)

くるっと振り向き、Yさんは奥の方を見てみることにした。左側にお父さんが引っ込んだ部屋があって、右側がお母さんが寝ている部屋だ。両親ともに寝ているのだろう、いびきが聞こえてきた。

(い、一応確認しようか……)

怖いので先にお母さんの部屋の方を見てみた。中ではお母さんが普通に寝ている。マスクをしてグウグウといびきをかいていた。

(えっ? じゃあ下の人たちは起きてない訳だ、さっきの音に。2人で幻聴ってことはあり得ないしな、気持ち悪いな……)

そう思いながら部屋の襖を閉めると、急にフッとお母さんのいびきがやんだ。

(んん? まあ、いびきがやむことはあるか。それでいちいち確認するのもおかしいか)

と自分を納得させたものの、気づくとお父さんの方のいびきも止んでいる。

Yさんは違和感を覚えたが、まあいいや、と思ってお父さんが寝ている一番奥の部屋を見ることにした。

襖をスッっと開ける。

(えっ、あれ?)

部屋の中に、布団が3つ敷いてある。布団は膨らんでいて、中に人が寝ている。

(え?)

反射的に手にもっている懐中電灯で、寝ている人の顔を照らした。

布団に入っているのは、Fさんたち親子3人だった。

Yさんは一瞬、自分の気が狂ったかと思った。しかし、確かにお父さんと、マスクをしてるお母さんと、2階にいるはずのFさんが、川の字になって寝ている。

思わず「なんで?」という言葉がYさんの口から出てしまった。その瞬間、布団の中の3人は実は寝てはいなかったのだろう、パッと目を開けてこっちを見た。

Yさんはその場に懐中電灯を落とし、腰を抜かしてしまった。

(うわうわうわ、ちょっちょっ、ええ……?)

そのままの体勢で、階段の昇り口まで這うようにして移動する。

翌朝。ハッと目が覚めると、Yさんは布団の中にいた。部屋を見回したがFさんはいない。

(怖い怖い怖い、えっ夢? なに、どういうこと?)

Yさんは昨夜の記憶を夢だと思いたかったが、起き上がるとお尻が痛かった。しりもちをついたためだろう。

(いや、あれは絶対夢じゃないって……)

そう思いながら1階に降りると、なんだか慌ただしい。

食卓にお父さんとFさんがいて、せっせと何かの準備をしている。お父さんはすでに外に出かけるような格好に着替えていた。

「どうしたの?」思わず声をかけると、Fさんの口から思いがけない言葉が飛び出てきた。

「あー先輩、すみませんね。入院してたお母さんが、ちょっと危篤状態になったから今から病院に行かなきゃいけなくなったんですよ」

Fさんは真顔だ。ふざけている感じではない。

(へ?)

きょとんとしているYさんに構わず、Fさんは荷物を準備しながら、「すみませんねほんと、せっかく来てもらったのに」と言葉を続けていく。

Yさんは混乱した。「待って待っておかしいよ」

「え? 何ですか?」

「昨日お母さん、いたじゃん! 風邪引いて、マスクしてたじゃん?!」

Fさんからは「え? 違いますよ?」といったリアクションが返ってくるかと思ったが、予想は外れた。親子でフッっと肩の力が抜けたようなしぐさをし、顔を見合わせて、

「ねぇー、先輩ってちゃんと話聞いてないでしょ~」

そう言って笑うのだった。

(あ、これはダメだ)

Yさんの全身に悪寒が走った。

「先輩すみませんね、朝ごはんとかちょっとご用意できないんですけど。ちょっと急いで出なきゃいけなくなったんで」Fさんはさっきと同じようなことを繰り返す。

これに突っ込んではいけない。Yさんはそう直感した。

「あ、そうなんだそうなんだ。うん、お母さんが危篤なんだもんね! 行かなきゃいけないよね!」

「そうなんですよ、ずっと長患いだったんでね」

「そりゃ急いで行かなきゃいけないね。それなら私もすぐ出るわ!」

実際、Yさんは早くこの家を出たかった。

洗面所に行って、急いで顔を洗う。

廊下に出ると、昨日お母さんが寝ていたはずの部屋が目に入った。

(いやでも、昨日あれを見る前に、ここでお母さんが寝るの確認してるわけだから。絶対この部屋にお母さんいたよね?)

親子2人は居間で準備を続けているらしい。その隙に、こっそりとお母さんの部屋の襖を開けてみた。

Yさんは自分の目を疑った。そこは物置だった。昨日見た部屋と比べて、明らかに広さも違う。

戸惑いながら足下に視線を落とすと、床に何かが敷かれている。敷物のように見えたが、暗くてよく分からない。

目を凝らすと、床に敷いてあったそれは、等身大の女性の下手くそなイラストが描かれた段ボール板だった。段ボール箱の裏面の無地の部分を、ガムテープで適当に張り合わせて作ったもののようだ。

(うわあー!!!)

Yさんは心の中で絶叫して、急いで襖を閉めた。

襖を閉めたタイミングで、「先輩、何やってんですか?」と背後からFさんが声をかけてくる。

Yさんは動揺しつつも、「あ、ごめん帰る帰る」となんとか誤魔化した。2階に置いてあった自分の荷物を大急ぎで取ってきて、「じゃあ、また大学で会おうねー」と別れを告げた。

Fさん親子も、「じゃあ私たち急ぎますんでね」と言って、スタスタと歩いていったが、向かった先は玄関ではなかった。

2人は、あの一番奥の部屋に入っていき、襖がパタンと閉められた。

(えー、急ぐって外に行くんじゃないの……?)

Yさんは立ちすくんでしまった。

すると、中に2人しかいないはずの奥の部屋から、

フフッ
クククク
アハハ……

と4、5人くらいの含み笑いが聞こえ始める。

(やばいやばい)

Yさんはやっと外に飛び出した。

改めて庭を見てみると、全く手入れされておらず草がボーボーに生えている。昨日見たときは夕方だったので気づかなかったらしい。

門を開けて出たところで、犬の散歩をしている近所のおじいさんに出くわした。

おじいさんは、今しがたYさんが出てきた家と、彼女の顔を見比べて、「あんたこの家の人の知り合いなの? 大丈夫なのこの家の人たち?」と矢継ぎ早に聞いてくる。

「知りません! ちょっと分かんないです!」

Yさんはそう言い捨ててその場から逃げ帰った。

それから一切、Fさんは大学に来ることはなかった。

彼女が最初から嘘をついていたのか、途中から何かにやられてしまったのか、それは誰にも分からない、という。

Posted by takahashi